2018年2月23日、第10回JPAAフォーラムが東京・銀座で開催されました。今回のテーマは「写真利用における最新の不正傾向」。Web発信のメディアが増える昨今、写真の使用も広がっており、それに伴って不正使用も頻繁に起こるようになりました。そこで、パブリックドメインの期限やネットメディアにおける写真利用など最新の動向を踏まえつつ、三宅坂総合法律事務所の野間自子弁護士からレクチャー。活発に意見交換を行いました。
パブリックドメインとは、どこまで使用を許されるのか?
パブリックドメインというのは、著作権などの知的財産権が発生していない、または消滅した状態を指します。著作物を使用するにあたり、「パブリックドメインだから使ってもいい」との認識がありますが、実際にどのような使い方なら許されるのか、また許されない使用方法はあるのかなどについて、野間先生からお話がありました。
野間先生「著作権の保護期間は、国によって違いがあります。日本は、亡くなった日の翌年の元日から50年(映画のみ公表後70年)。台湾や韓国、フィリピンやベトナムなどアジア各国は50年が多く、アメリカやEU諸国、オーストラリアは70年、メキシコは100年。逆に、ソマリアやナウルのように、著作権のない国もあります。
著作権の保護期間が切れていれば使用は自由ですが、インターネットは世界同時に見ることができるので、たとえば日本で見る場合は著作権保護期間が切れていればいいのですが、アメリカではまだ保護されている期間であった場合、その国の保護期間に照らし合わせて使用した方がいいでしょう」
また、浮世絵などをデジタルで複製して販売した場合でも、浮世絵がパブリックドメインであれば著作権法上は問題がないこと、アート作品だけでなく同様に著作権が切れた写真などもデータ化しての販売も自由との見解が示されました。ただしその際に、販売された側に対して使用の注意などが明示されており、それを逸脱した場合は著作権ではなく契約違反などで不正使用した相手を糾弾することが可能とのことです。
写真の場合は類似カットもありますが、明らかに別の写真であると識別できるのであれば類似の別カットと認定されますが、そうでない場合は同じ写真だと見なされることもありうるのです。
ネットメディアであるYahoo!やLINEなどを、報道機関ととらえることができるのか?
野間先生「著作権法第41条に照らし合わせると、いわゆる新聞社や放送局ではなくても、たとえば個人であってもニュースを人に伝達したいと思って編集がなされたのであれば、著作権法上は報道であるとみなされます。ですので、Yahoo!やLINEで発信されたニュースは報道であると考えます。発信元がいわゆる報道機関であるかどうかは関係ありません。
では報道というのはどういう定義かというと、『時事の事件』=現在または現在と時間的に近接した時点の出来事のみ、『報道する』=事件や事実を取材し編集し、発表ないしし伝達すること、『方法』=写真・映画・新聞・雑誌・有線放送・Webサイト等(個人レベルの必要な報道も含まれるとする考え方が有力)、『目的上正当な範囲内』=スポーツや劇場の中継はNG、必要性・態様・量的な側面から判断、が条件として挙げられます。
たまたま画像の背景に他の著作物が入ってしまった場合、報道であれば著作権者の承諾は不要です。仮に人の顔が写っていたとしても、公共の利害に関することで公益目的であり、公表内容が相当であるという場合は、肖像権についても許諾がいらないと考えられています。ソーシャルメディアに掲載された場合も、著作権法第41条と肖像権の使用に照らして、許諾が不要とされることがあります」
他に、ドキュメンタリー映像は上記の条件に照らした場合、報道には該当しないとされます。報道の対象が政治家の場合は、それ自体が公益性が高く、国民の知る権利を優先させることもあるとのこと。犯罪者の報道の場合は、刑法を犯している段階で人々に警告する意味で伝えてもいいとされています。ただ、犯罪者が未成年者であると、可塑性があるためにそこまで暴露するのは人権侵害になるのではとの論争もあるのが現状です。
また逮捕後に裁判を経て被告人がもし無罪になったら、逮捕時に顔が出てしまうのは問題があるかもしれませんが。
ネットメディアにおける写真の引用は、どこまでが許されるか?
引用と称して写真を使われることが増えてきていますが、どういう条件で引用が認められるのか、またそこに問題は発生しないのかについて、教えていただきました。
野間先生「引用については著作権法32条に規定されており、その条件を満たせば著作権者の許諾なしに引用できることになっています。ただ写真などの場合は、一部ではなくほぼ全部が引用されるため、32条の中でも『自分の著作物と引用する著作物とが明瞭に区別されていること』『自分の著作物が主、引用される著作物は従の関係があること』という、公正な慣行に合致しているかが重要です」
野間先生から、最近の動向として3つの事例が紹介されました。
1件目は、オークション用カタログ事件。これは、オークション会社が主催するオークション用のカタログにピカソ等の作品の写真を掲載したもので、引用についての合理的な理由がないとみなされて、日本円で8,000万円近い賠償金を支払うという判決が出ました。
2件目は、リンクについて。日本では侵害コンテンツへのリンクであってもリンク自体は公衆送信権侵害に当たらない(著作権法第47の6)とあり、原則としてリンクは自由です。ですが、雑誌『Playboy』に掲載予定の未公開写真を閲覧できるWebサイトへのリンク(許諾を得ていない)について、EU司法裁判所でこれは著作権侵害に当たると判決が出ました。リンクがあることによって情報が拡散することもあり、必要不可欠な行為のためにどこまでリンクを貼る行為を制限するかの論争にもなりました。
3件目は、リツイートについて。ある写真家の写真が無断でアカウント画像に使用(①)され、さらに画像付きツイートの一部として使用(②)したためタイムラインにも表示。それがリツイート(③)され、発信者情報の開示をツイッター社に求めたという案件です。この場合、①と②については著作権(公衆送信権)侵害、③はデータが送信されずリツイートによって利益を得ているわけでもないため、著作権侵害には当たらないとされました。
エンターテインメント目的の場合、たとえば小説の一部などについては、その要件を満たせば引用が認められることがありますが、猫の動画など他人の著作物を集めて再構成したものは引用とはされず原則として許諾が必要となります。
また写真の引用については、主従の関係を強調したいために高画質を低画質に、カラーをモノクロにするなど手を加えると、これは引用の条件を満たさなくなる可能性があります。低画質化については程度問題ですが、トリミングなどをしても「公正な慣行」に合致しなくなると考えられます。
まとめサイトへの対応はどのようにすればいいのか?
ネットのまとめサイトでの写真の不正利用の動向や、インスタグラムやブログなどで個人が勝手にストックフォトの写真を使用したり、フォロワー数の多いタレントやブロガーへの注意喚起をどのようにするかについて、意見が交わされました。
野間先生「まずまとめサイトに関しては、DeNAの医療情報まとめサイト『WELQ(ウェルク)』をはじめ10のサイトが閉鎖された事例を挙げます。誤った情報の発信や、引用の範囲を満たさない画像使用が約75万件あったということです。まとめサイトというのは時事の報道には該当しないので、許諾を得ないで引用を行うのは認められないかと。
ブロガーなどについては、有名な方であればそれで広告収入を得ているので、有名であるほど著作権などを守っていただきたいですし、あまりにもひどい場合は損害賠償や掲載差し止め請求などを行ってもいいのではと思います」
裁判になった場合、公正な慣行に合致しているかを見られることが多いそうです。主従の逆転や、誰の著作物かがわからないことが問題になるため、出所の明示がされていないものについては、積極的な注意喚起が必要です。
野間自子(のまよりこ)
弁護士。三宅坂総合法律事務所所属
profile
慶応義塾大学法学部卒業、ワシントン大学ロースクルール修士課程修了。1986年に弁護士登録後、1999年に三宅坂総合法律事務書パートナーに。2007年からは日本知的財産仲裁センター委員会の委員に。2014〜2015年には、日本知的財産仲裁センターの副センター長、2016〜2017年には同センター運営委員会委員長を、2017〜2018年には同センターセンター長を務める。主に知的財産権法、会社法などを取り扱うことが多く、企業法務・企業買収などのサポートも。