2017年2月8日(水)に開催された、第9回JPAAフォーラム。今回は、「これなら分かる! 実践著作権セミナー ~許諾が要るか? それとも無断でできるか? 具体例で考える~」というテーマで、株式会社TBSテレビ総務局ビジネス法務部担当局次長の日向央さんに、講演をしていただきました。
これは、一般社団法人日本映像・音楽ライブラリー協会(JVLA)にご協力をいただき、JVLAが普段行っているセミナーを「実践著作権セミナー」としてJPAA会員に向けてカスタマイズされたものです。なぜこのセミナーを行ったのか、事業委員会担当理事の木下美和子さん(アフロ)にお話を伺いました。
「スマホの普及など機材の進化によって、誰でも簡単に動画が撮れる時代になりました。それはプロのフォトグラファーにとっても同様で、フォトエージェンシーでも動画素材の扱いが増えています。そこで気になるのは、動画素材の著作権について。写真と違う点はどこか、何に気をつけるべきかをフォーラムで会員全体に共有し、今後のビジネスに役立てられるような内容にできないかと考えました。
映像や動画の著作権についてのセミナーを行うにあたってJVLAのご協力を仰ぎ、TBSテレビで、日々、著作権についての諸問題に対応されている日向さんに、トラブル回避の方法をお話していただくことに。映像制作の現場での事例も交えながら、実践的な内容を解説していただきました」
JPAAの会員にとって、動画の著作権について聞く貴重な機会となったセミナーの一部を、抜粋してお伝えします。
映像制作における、著作権について
映像制作においては、著作権についてのあらゆる知識が体系的に必要とされます。講師を務めていただいた日向さんは、TBSテレビにおいてその著作権関連のマネジメントに携わる法務部に在籍されています。今回は、実例を用いながら、現場の苦労話や裏話などを話していただきました。
映像の制作者は、「権利者」か「利用者」か?
小説をドラマ化する場合、著作権法上では「権利者」と「利用者」が発生します。
「権利者」とは、著作権を持っている者。原作者である小説家・作家が権利者に当たります。権利者は、原作小説を利用したり複製したいと他者が申し出たときに、禁止または許諾をする権利があります。
「利用者」とは、コンテンツを使う側。この場合は、小説を出版した出版社を指します。権利者である作家が使用を禁止すればコンテンツを利用できませんし、許諾が得られれば対価を権利者に支払うことになります。
ただこのとき、ドラマが爆発的に人気になりそれに伴って小説が売れると、出版社は原作者よりも大きな利益を得ることになります。場合によっては、権利者よりも利用者のほうが大金を手にすることがあるということです。
では、ドラマを制作したテレビ局はどちらの立場になるのでしょうか? これは、著作権法上では「映画の著作物」という扱いになり、制作者であるテレビ局は「権利者」となります。権利者は、このドラマを複製したりネット配信するといった「利用」を行う者に対して、禁止権を行使できるのです。
その反面、テレビ局がたとえばこのドラマをDVD化しようとしたときには、音楽の複製や録音の利用、俳優らの実演を録画するなどについて「利用」を行う立場になるため、それぞれの権利者に許諾を得る必要が出てきます。この場合、テレビ局は「利用者」となるのです。
JASRACは、なぜカラオケ店から使用料を徴収できるのか
著作権というのは、17種類の利用方法の個別の禁止権の総称。ポイントとなるのは、「公衆」を対象にして利益を供与される状況で使ったかどうかということです。公衆とは不特定多数または少数、及び特定多数の人を指します。
たとえばある有名歌手が、大学の学園祭でノーギャラで歌ったとしたら。これは、不特定多数に聞かせてはいますが、利益が生まれていないので合法です。親しい友人を集めて、有料で歌ったとしたら。こちらも、利益は生まれましたが特定少数が対象なので、問題ありません。
では、カラオケはどうか。カラオケボックスの中で特定少数である友人に聞かせているだけだから、大丈夫なのではと思いがちです。しかしながら、カラオケボックスの場合は、経営している店が不特定少数の客に対して歌ったことで利益を得ているとの裁判所の判断が出され、JASRACがカラオケ店から使用料を徴収しています。
今、音楽教室からも使用料を徴収することで話題になっていますが、これも先生が生徒に聞かせる、つまり不特定(多数のみならず少数でもよい)の相手に対して音楽を使うことで利益を生んでいるとみなされたためと考えられるでしょう。
建築物における、「権利者」と「利用者」の誤解
通常、「利用者」は、あるコンテンツを使う際に「権利者」が誰であるかを確認し、許諾を得てから利用します。これが権利処理、いわゆるライツクリアランスなのですが、時として権利者が「権利」の範疇を間違ってとらえていたり、権利がないのに権利を主張する例などもあります。
たとえば、著作権と所有権を混同している場合。神社仏閣などの外観を撮影して放送することがありますが、その際に該当する神社仏閣の許諾が必要でしょうか? 本来は不要です。神社仏閣の私有地に入り込んで撮影していない限り、許諾はいらないのです。入り込んで撮影した場合でも、撮影された映像に関し、所有者が権利侵害の主張をできるわけではありません。
同様に、その他の建築物についても外観を撮影して無断で放送できるのでしょうか? 答えは、可能です。著作権法には「建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」とあり、それを受けた項目に「建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合」と定められています。
対象となる建築物と同じ建物を作るという複製はNG。それを売るのもNG。権利は建築の設計者にあり、そもそも所有者には禁止権がありません。その建築物のおもちゃを作って販売し、あるいは外観を撮影して絵はがきにして販売したとしても、著作権の侵害にはならないのです。
商標を放送すると、商標権の侵害になるのか?
放送中、さまざまなメーカーの製品が画面に映り込むことがありますが、製品には商標がついており、それらを放送することは商標権の侵害になるのではないか、という認識がテレビ局の現場にはあります。しかし、商標権とは放送や複製の禁止権ではなく、別の製品にその商標をつけて販売をすると、それが商標権の侵害に当たるというものです。よって、ただ放送するだけであれば商標権の侵害には当たりません。
以前に、一般の人から東京・大阪の放送局に対して「『まいど』を商標登録したので、『まいど』を放送するに当たってはご留意ください」との手紙が届けられたことがあります。この人の場合、「まいど」の登録区分が「放送」であり、これは放送サービスを「まいど」という名前で行うよという意味であり、「まいど」という言葉を使ってはいけないということではありませんでした。
このように、「権利者」と「利用者」の双方に誤解を生んでいるケースはまだ他にもあります。著作権が示す範囲を確認し理解することで、著作権を正しく活用していくことが大切だと考えています。