今、注目の著作権セミナー。知っておくべき画像の権利とは?

東京オリンピックのエンブレム問題で、にわかに注目を集めた著作権。画像を利用する際に著作権のことをどこまで知っておけばいいのか、気をつけるポイントはどこなのでしょうか。定期的に著作権セミナーを開催しているアマナイメージズの佐々木孝行さんに、セミナーを行う理由と意義について聞きました。

著作権セミナーを行うことになったきっかけは?

もともとは社員研修が最初でした。アマナグループはビジュアルコンテンツを制作する会社であり、社員一人一人が著作権に関する意識を高く持つ必要があります。教える側のメンバーとして自分も参加しており、その後、取引先の広告代理店や制作プロダクションなどに「ぜひウチでもやってほしい」と声がかかるようになりました。

そうしているうちに、JAAA(日本広告業協会)のシンポジウムに呼んでいただいたのが、その後継続的にセミナーを行う大きなきっかけになりました。電通をはじめとする大手広告代理店や制作プロダクションの法務担当の方が数多く出席する会で、撮影現場での権利処理に関してストックフォト提供者の観点から話をしたところ、口コミで広まったようです。

セミナーニーズの背景には、どのようなことが考えられますか。

写真のデジタル化が進み、画像の取り扱いが簡単になったことが大きいですね。デジタルの場合はデータのやりとりが簡単な分、いつの間にか画像が勝手に使われているなど、データが独り歩きしがちです。結果、無意識の著作権侵害による事故が増えていくので、未然に防ぐための啓蒙が必要だと考えましたし、画像を利用する側も同様に思ったのではないでしょうか。

東京オリンピックのエンブレム問題直後は、多い時で月に15回を越えるなど、悲鳴を上げたくなるようなご依頼をいただきましたが、今でも月に2、3回ほど開催しています。対象は、制作の現場で実際に画像を利用するデザイナーなどのクリエイターが約7割。残り3割は営業部門であったり、マーケティング部門、広報などさまざまです。広告制作の会社だけではなく、食品や電化製品のメーカー、不動産会社などもあり、世の中の流れとして著作権のことをきちんと勉強させたいという企業が増えてきたように感じます。

ベネッセグループ研修会場でのセミナーの様子。
ベネッセグループ研修会場でのセミナーの様子。

セミナーでは、どのような講義を行うのでしょうか。

著作権の基礎的な話から始まって、世の中の権利に関する動き、たとえば今ならTPP加盟で予想される変化や、ジャパンコンテンツ輸出に向けた国の動き。そして過去の判例と合わせて、これまでに実際に経験したトラブルの事例などを中心に、90分ほど話します。

クレームでいちばん多いのは建物ですね。神社、寺、有名なビルなど、権利者からクレームがくることがあります。もともと恒常的に設置されている建物やビルなどは、自由に撮影して広告に使用しても法的には問題がないことが多いです。私有地の中とか撮影禁止の場所で撮っていなければ、むしろ撮影者側の著作権が優先されます。したがって、クレームには何ら法的な論拠がありません。

しかしながら、広告の場合は、そのクレームが制作側ではなく直接クライアントのところに行ってしまいますから大騒ぎになる。法的に問題がなくても、クレームをつけられたということ事態、企業としては敬遠します。セミナーでは、法的な観点で注意しなくてはならないことは何か、それとは別にクレームを未然に防ぐためにはどうしたらいいか。この2つの観点で話をしています。

セミナーでよく話される内容は、他にどんなことがありますか。

クリエイティブ系の人の関心は、「パクリはどこまで許されるか」。これは過去の判例を示して解説します。日本の著作権裁判は歴史が浅く、なかなか判決まで持ち込まれるものが少ないです。途中で和解してしまうと裁判がどんな内容だったのか、なぜ著作権侵害に触れることになったのかといった話が表に出ないので、判決が出た事例は大いに参考になります。

類似したキャラクターを使ったとされた、博士イラスト事件。
類似したキャラクターを使ったとされた、博士イラスト事件。

 

写真のパクリ裁判としては国内最初の事案とされている、みずみずしいスイカ写真事件。
写真のパクリ裁判としては国内最初の事案とされている、みずみずしいスイカ写真事件。

 

それと、よくトラブルになるテーマとしては、センシティブ使用があります。たとえば、「私も愛用しています」と、精力剤や育毛剤の愛用者の声を代弁しているようなモデル写真の使い方。実際にはそうではないにも関わらず、です。他には、20代のモデルなのに、「私はこれでも40代です」と化粧品やエステの広告に利用されたりします。利用規約では禁止行為になっているのですが、ストック画像なら何に使ってもいいと勘違いしている人がいますが、これは要注意です。

また最近では投稿型の写真販売サイトが増えてきましたが、投稿する側の撮影マナーや、情報精度に対する姿勢がかなり危険だなと思うことがあります。そういう意味では、利用する側で、写真と説明文が本当に合っているのか、慎重に確認することが必要でしょう。今後、このような形のサイトが増えるでしょうから、投稿する側、利用する側、両者への啓蒙が必要だと感じています。

よく質問されることは何でしょうか。

最近多いのは、プレゼン資料の中でどこまでネットの画像を使っていいのか、です。杓子定規に言ってしまえばすべてNGですが、「引用」として使う方法をアドバイスしています。たとえば、説明を補足するための具体的な資料写真として使う場合。これは条件を満たすことで引用できる可能性があります。

ウォーターマーク入りの画像も安易に使われることが多々あります。本来、プレゼン使用として許されるのは、その写真を広告などの素材として使用するかどうかを検討する場合のみですから、全く関係のないプレゼン資料にイメージカットとして使用することは、完全なる著作権侵害ですね。

それと、「ロイヤリティフリー」を誤解している人も多く見受けられます。「フリー」を拡大解釈して、自分が買った画像はどんな形でも使えると思い込んでいる人がいます。また、すべての権利処理がされている画像だと思っている人も。実際には使用にも禁止行為があり、権利処理もすべてクリアしているというわけではありません。「フリー」という言葉を、都合のいいように解釈しないよう気をつけましょう。

あと質問で多いのが、写り込んだ看板の処理に関する質問です。風景の一部として撮った写真に写り込んだ看板であれば、その写真を広告に使用したとしても何ら問題とはなりませんから、あまり神経質にならないようにアドバイスしています。

また、写真の輪郭線をトレースしてイラストを描き起こす行為。これもれっきとしたパクリ行為になります。

著作権について、今後はどんなトラブルが起こると予想されますか。

これまでになかった新しいメディアが登場し、デジタルとアナログの垣根すら曖昧な時代になってきました。トラブルがなぜ起きてしまうのかという理由の一つに、ルールそのものが時代に追いついていないということも言えると思います。著作権の保護を目的にするのではなく、より社会に役に立つライセンスの考え方や管理方法を、我々のような業界がリーダーシップを持って提案していく必要があると思います。


佐々木孝行(ささきたかゆき)

profile
株式会社アマナイメージズ取締役。長年にわたり、クリエイティブ素材の流通ビジネスにおける商品開発を、責任者として担当。世界中の著名写真家やクリエイターとの契約締結を数多く手がける一方、制作の現場で発生したさまざまなトラブルの解決を指揮。安全な写真の利用啓蒙を目的に、一般企業での著作権セミナーの講演や業界シンポジウムのパネラーを数多く務める。